イジワル上司と秘密恋愛
——綾部さん……会いたい、話したい……抱きしめられて、『大丈夫だよ』って頭をなでてもらいたい……。
長い時間が経った今でも鮮明に思い出せる、綾部さんの優しくて妖しい指先。
私にすべてを教えてくれたあの指先で、もう一度触れられたいと強く願ってしまう。
あのときは彼に抱かれることが嬉しくて、でも苦しくて切なくて泣いてばかりいたのに、今はこのつらさを救ってくれるのは彼のぬくもりだけのような気がして。
「綾部さんに……抱かれたいよぉ……」
あんなに逃げ出したくてたまらなかったあの手が、今はどんなに願っても与えられないのは、もしかしたら私の咎なのかもしれない。綾部さんの愛を信じず勝手に疑って傷つけた、私の受けるべき罰——。
けれどそれでも、彼を心と身体で欲することは止められなくて。
私は狂おしい切なさと寂しさを抱えながら、ひとりぼっちの夜を泣くことをやめられなかった。
***
ところが——そんな私に手を差し伸べてくれる人があらわれる。
ただそれは、望んでいた手ではなかったけれど……懐かしいあたたかさを持っていた。
怪我の具合もだいぶ良くなってきた頃。
私はH&C事業部のメンバーと商品説明会に出席するため、なつかしの関東事業部へとやって来ていた。