イジワル上司と秘密恋愛

「大手リカーマーケットのセレクト担当、木下麻里絵さんだよ」

その名前を耳にして、私の中にふと違和感が沸く。と同時に

——取引先のひと? ……じゃあもしかしたら、綾部さんとはプライベートじゃなく接待や仕事で会ってた可能性も……?

いじましくもそんな期待を抱いてしまった。

けれど、続けて話された新海さんの言葉にそれはすぐさま否定される。

「春澤は知らないのか。綾部部長がずっと付き合ってる恋人だよ」

スッと、背筋に冷たいものが走った。

分かっていたとはいえ改めて突きつけられると、やっぱりショックだ。

そして——さらに続けて話された内容に私は耳を疑った。

「関東に居るときからもう四年越しの付き合いだって。もうすぐ結婚するらしいよ」

「……四年……?」

信じられない思いと共に、さっき一瞬沸いた違和感と新海さんの言葉が一致した。


——麻里絵……麻里絵……? そうか……“マリ”さんだ……!
 
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