イジワル上司と秘密恋愛


帰りの新幹線に乗って出発した直後、スマホのライン通知音が鳴った。

開いてみるとそれは木下くんからのもので。

『説明会おつかれさま』『春澤が兵庫に戻っちゃうと思うと淋しいけど、またこっちに来ることがあったら連絡して』『俺もそっちへ出張に行くことがあったら連絡するからまた会おう』

そんな内容のものだった。

ボンヤリと目で文字を追いながら私は思ってしまう。

……このまま、東京に残ろうかな。なんてことを。

だって、関西に戻ったって私にいったいなにがあるというんだろう。

もう心の支えに出来る思い出も、恋心もどこにもない。迎えるのはきっと命まで脅かすような不気味な嫌がらせだけ。

——私、どうして綾部さんを追いかけちゃったんだろう……。

悲しくてつらくて、新幹線の中だというのに涙が滲んできてしまった。

周囲に気付かれないように、私はハンドタオルを瞼に乗せると顔を窓の外に背けて寝たふりをした。

 
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