イジワル上司と秘密恋愛
「案外難しいな」
そんなことを呟きながら、綾部さんは私の隣で筆を動かし始めた。
なんだか意識してしまって緊張しながら、私も再び筆を動かし出す。
思うように模様が描けないのか、綾部さんは首を傾げてから私の手元を覗きこみ、
「春澤は上手いな」
なんて言ってきた。
「別に……何も難しいことないですよ」
なにか返事をしなくっちゃと焦ったら、口をついて出たのは可愛げのない台詞。
さっきは冷たかった彼の気まぐれな接触に、嬉しくなんかないと自分を戒めたら、つい意地を張ったような態度になってしまった。
綾部さんは一瞬キョトンとしていたけれど、ふっとどこかイジワルそうに目を細めると、
「まったく、生意気だな春澤は」
なんて、私の意地っ張りを見抜いてるように言った。
それがまるで昔の関係を思い出させるような気がして、うるさい心臓がますます鼓動を早くする。