イジワル上司と秘密恋愛
——なんでキスしたんだろう……。
何度も繰り返し考えてしまう答えの分かっている疑問。
昔と同じ、遊ばれてるだけだと分かっているのにそれでも考えてしまう。
無関心を装われて冷たく突き放されたり、かと思うと優しく声をかけてきたり……昔の思い出を語ったり、キスをしたり。
遊ばれている。綾部さんは私を翻弄して楽しんでいるんだ。
悩むまでもなく択一の答え。
それはあの頃とまったく同じで、本命のマリさんがいるのに浮気で私を弄んで楽しんでいる酷い男という証明なのに、彼のくれる優しい言葉やキスについ甘えて信じたくなってしまう。
——私ってば、あの頃から全然成長してない。
同じ轍を踏もうとしている自分の馬鹿さ加減に呆れ、ハアッと盛大な溜息を零してしまった。
当然隣にいた片桐さんに気付かれ目を丸くされてしまう。
「どうしたの? おっきな溜息。疲れちゃった?」
「うん、少しね。私、食事終わったら先に部屋に戻るわ」
せっかくの旅行なのに、こんなに私を悩ませるなんて——やっぱり綾部さんてば。
「……イジワルなひと」
誰にも聞こえない声でポツリと呟いてから、私は視界の端に綾部さんを眺めつつ席を立った。