イジワル上司と秘密恋愛
自室の前まで行くと、旅館の従業員と思わしき人がドアの前に立っていた。
私が歩いてきたのを見つけ「春澤志乃さまですか?」と尋ねながら近付いてくる。
「そうですけど……」と答えるとその従業員は、
「お客様より春澤さま宛てにと、お預かりしております」
そう言って一枚の簡素な封筒を私に差し出した。
「私に? 誰からですか?」
「男性の方ですが、お名前は中に書いてあるとのことです」
差出人のない封筒……嫌がらせの経験からなんだか嫌な予感がするけれど、私は慎重に封を開けてみた。
糊付けされていない封筒から飾り気のない便箋を取り出し広げてみる。
けれどそこには私の不安とは裏腹の文字が綴られていた。
『今夜八時、崩台ホテルで待ってる 綾部』
「っ……!」
大きく心臓が跳ねて息を呑んでしまう。
目を瞠った私の様子を見て、従業員の人が「春澤さま宛てでお間違いなかったでしょうか?」と聞いてきたので、慌てて頷いた