イジワル上司と秘密恋愛

ところが——。

「ん?」

何か背後の茂みからガサガサと草を掻き分けるような音がして振り向くと、暗闇の中に人影が見えた。

「綾部さん……? 来てたんですか?」

おそるおそる声をかけると、その人影がこちらに向かって手を振る。私はホーっと大きく安堵の息を吐き出すと、その人影に向かって歩いていった。

「もう、なんでこんなところ待ち合わせにするんですか? いくらなんでも不気味すぎますよ」

そんな文句を言いながら綾部さんに近付いていこうとしたけれど、彼はクルリと背を向けるとさらに敷地の奥へと進んでいってしまう。

「え? ちょっと……中に入るんですか?」

綾部さんは私の躊躇にも構わずどんどん進んでしまい、ついには建物の中に姿を消した。

「やだ、待って下さいよ」

こんなところで離れ離れになっては大変だと思い慌てて追い掛ける。

けれど、建物の入口に足を踏み入れたときには綾部さんの姿は見えなかった。
 
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