イジワル上司と秘密恋愛
「あ……綾部さーん、どこですかー?」
大声で呼びかけてみたものの返事はない。
ろくに月明かりも射し込まない真っ暗な建物。あちこち崩れ落ちた壁や割れた窓はまるでホラー映画の舞台のようで、私は思いっきり身震いをして叫んだ。
「綾部さん! 悪ふざけやめてください! 私こんなところで話するの嫌です、帰りますから!」
せっかく自分の気持ちを伝えてけじめを付けに来たのに、怖くて怖くてそれどころではなくなってしまった。
私は悪ふざけが過ぎる綾部さんに腹立たしさを覚えながら、歩いてきた通路を逆戻りしようとする。
すると、ひとつの部屋から明かりが漏れているのを見つけ、「綾部さん……?」と、おそるおそるそちらへ近付いていった。
「……あれ?」
中に入ってみるとそこはどうやら個室のようで、こぢんまりとした部屋に朽ちたカーテンが垂れ下がって不気味さを醸し出していた。
けれど、そこには誰もおらず——ベッドの上にポツリと懐中電灯だけが置かれている。
「明かりの正体はこれ……? でも、綾部さんはどこに……」
不思議に思って辺りを見回したときだった。
バタンと音がして驚いて振り向くと、唯一の出入口である扉が閉められていた。
「え!?」
慌ててドアに駆け寄った私の耳に聞こえてきたのは……ガチャガチャという施錠の音。まさかと思いながらノブに手を掛けたけれどドアは全く動かず——私は閉じ込められたのだと察した。