イジワル上司と秘密恋愛
「ウソ! ウソでしょ!? 綾部さん! 開けて、お願い!!」
叫びながら私はもうこれが綾部さんなんかの仕業じゃないと気付き始めた。これは、誰かの罠だと。
信じられない状況に恐怖が一気に沸き上がり、死に物狂いでドアを叩く。けれど私の耳に届いたのは、部屋から遠ざかっていく足音。
「ウソぉ……」
絶望感さえ感じ、私は自分の身体を両手で抱きしめながらズルズルとその場にへたりこんだ。
——私が馬鹿だったんだ。不気味な嫌がらせをされている身なのに、あんな手紙簡単に信じちゃって……。
犯人が同じ事業部の人だって可能性は充分にあったのに、すっかり油断してしまっていた。
助けを呼ぼうとしたけれどスマホは圏外。きっと私を閉じ込めた人はこのことさえも分かっていたんだろう。
ところどころシーツの破れているベッドの埃を払って隅っこに腰掛ける。心細くて怖くて、ぎゅっと膝を抱えひとりで震えた。
……もしこのまま誰も助けてくれなかったらどうしよう。相手は私を階段から突き落としたことのあるひとだ、ただの悪戯じゃ済まない可能性だってある。
一番最悪な事態を考えゾッとした私は、残されていた懐中電灯を手に取ると自分に発破をかけて気合を入れた。
「どこか出口を探さなくっちゃ! 怖がってる場合じゃない!」