イジワル上司と秘密恋愛
「綾部さん……来てくれたんですね」
「ああ、お前がタクシーに乗っていくのが見えたからな。こんな時間におかしいと思って従業員に聞いてみたら、廃墟のホテルに行くらしいなんて言うから、心配で追いかけてきたんだ」
嬉しすぎて信じられないくらいだった。私を心配してここまで駆けつけてくれただなんて。
安心と感激で、ますます涙が零れてしまう。
「大丈夫か、春澤。どこか怪我してないか?」
「怪我は大丈夫です……でも、鍵をかけられちゃって、出口がなくて……」
「分かった、今すぐ行くから待ってろ」
綾部さんは窓越しにそう言うと、走ってホテルの入口側へ回った。
そしてしばらくした後、ドアをノックする音と共に「ここか?」という綾部さんの声が出入口から聞こえた。
「綾部さん、ここです! この部屋に閉じ込められてます!」
今度は扉に駆け寄り大声で伝える。
ドアからは何かガチャガチャと聞こえた後に少し大きな打撃音が響いた。けれど、その音がやむと
「だめだ、チェーンで閉められて南京錠がかかってる。簡単に壊せないしこれじゃドアも蹴破れない」
と、焦りを滲ませた綾部さんの声がした。