イジワル上司と秘密恋愛
「どういうことですか?」
目を丸くして驚くと、綾部さんは大きく息を吐き出してから話し出した。
「お前をここに誘い出して閉じ込めたのは……多分、新海だよ」
「……ええっ!?」
静かな廃墟に私の驚きの声が響き渡る。
綾部さんの発言があまりにも突飛過ぎて、私はにわかには信じられずにいた。
けれど……思い返してみれば、ここで綾部さんだと思って近付いた人影。確かに新海さんのものに近かったような気もする。
でも、新海課長に恨まれるようなことなんか心当たりがないし……。
疑問だらけの私に説明するように、綾部さんはゆっくりと話を続けた。
「俺がまだ関東事業所の営業課に居た頃……木下麻里絵って彼女と付き合ってたんだ」
ふいに出されたマリさんの名前に、胸がキュッと痛んだ。
どうして今その話をするんだろうと思ったけれど、真剣な表情をした綾部さんに、私は黙って聞くように努める。
「リカーマーケットの令嬢でセレクト担当だった彼女と仕事がきっかけで出会い、二年付き合った。それなりに順調に付き合ってたつもりだったんだけど……麻里絵が関西方面を担当するようになり遠距離恋愛になってから色々変わっちゃってな」
そこまで紡いだ後、綾部さんは一拍於いてから眉間に皺を寄せた。
「ある日、麻里絵に言われたんだ。子供が出来たから結婚して欲しいって」