イジワル上司と秘密恋愛

綾部さんの言葉に私はまたしても驚いてしまったけれど、でも現状を考えるとそれは叶わなかったのだと容易に想像はついた。

「俺はもちろん責任を取るつもりだったけど……お腹の子供は俺の子じゃなかった。関西で知り合った当時うちの営業担当の男と、麻里絵は浮気していた」

「もしかして、それって……」

「ああ、それが新海だよ」

再び廃墟に沈黙が落ちる。

衝撃ではあったけれど、段々と私の中にあった疑問の糸が解けていくような気がした。

「それが俺にバレて、結局彼女は子供を産まなかった。そしてこれがきっかけで俺は彼女と別れた。もう五年近く前のことだよ」

「……あの、もしかしてトカゲのマリリンって……その」

「ん? ああ、そうだよ。トカゲじゃなくてヤモリだけどな。麻里絵にもらったんだ。彼女は爬虫類好きだったから。まあ……ペットに罪はないし、すっかり情も移っちゃったんで飼い続けてる。春澤と付き合ってたときは、別に後ろめたくはないけど、どうやって説明しようか悩んだけど」

やっぱりマリリンはマリさんの置き土産だったんだ。

少し複雑な気分ではあるけれど、それより私は綾部さんが彼女と別れたという真相の方が気になっていた。新海さんの言っていたことと食い違っている。
 
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