イジワル上司と秘密恋愛
「麻里絵とはそれっきりだったんだけど、再会したのは関西事業所に来たときだ。今でもリカーマーケットのセレクトをやっていた彼女と再び会ってしまって——」
一瞬口を噤んだ綾部さんは、少しだけ私の方を見やってから続きを紡いだ。
「……彼女から泣きながらやり直したいと懇願されて、俺は麻里絵と復縁した。こんなこと言うのもなんだけど、春澤に振られたあと新天地へ来たばかりで俺も少し寂しかったんだと思う。心機一転して、また新しい恋が出来ればと思った」
少し眉をひそめて自嘲気味に口もとを歪ませた綾部さんの表情に、なんだかこちらの胸も詰まる。
綾部さんも私のせいでたくさん苦しんで立ち直ろうと努力していたんだ。それが伝わってくるようで胸が痛んだ。
綾部さんは大きくハーっと息を吐き出すとさらに苦笑いに顔を綻ばせて、まるで照れ隠しのように明るい声で言った。
「でも駄目だったよ。自分の気持ちにウソはつけないってすぐに気付いた。忘れられない女の子がいるのに麻里絵とは付き合っていけないって思って、一ヶ月もせずに別れたんだ」
「……忘れられない……女の子……?」
思わず聞き返してしまうと、綾部さんは組んだ手で口もとを隠すように微笑みながらこちらを見た。
「分かってるくせに、言わすなよ。イジワルな女だな」
その台詞を聞いて、私の頬がかぁっと赤く染まった。