イジワル上司と秘密恋愛

「良かった、間に合って」

木下くんは身体を起こしてくれながら言ったけれど、どうして彼がこの状況を把握していたのか、さっぱり分からない。

ところが、突き飛ばされたのか倒れていたマリさんが鬼のような形相で部屋に入ってくると、木下くんはそれを見て悲しげに顔をゆがめて叫んだ。

「もうやめろ、姉さん!」

驚くべき台詞に耳を疑う。

——姉さん? 麻里絵さんが……木下くんのお姉さん?

そんな馬鹿なと思ったけれど、ふたりの苗字が同じ木下だということにハッと気付く。

そしてマリさんがリカーマーケットの令嬢と云うなら、弟の木下くんもそのツテでうちの商品を扱っててもおかしくない。

こちらにゆっくり向かってくるマリさんは手にスタンガンを持っていて、普通じゃない目をしながら木下くんに近付いていく。

「いっつもいっつも私の邪魔ばっかりして……浩輔ぇ!!」

スイッチを入れたスタンガンを木下くんに向かって振り上げたマリさんを間一髪止めたのは、

「やめろ!」

と叫んで彼女を取り押さえた綾部さんだった。

 
< 232 / 239 >

この作品をシェア

pagetop