イジワル上司と秘密恋愛
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木下くんに殴られ気を失っていた新海さんと、綾部さんに取り押さえられたマリさんを、後ろ手で手錠に繋ぎ警察を呼んだ。
警察が来るまでの間、ようやく動けるようになった私を綾部さんが抱き寄せるように支えてくれて、木下くんはそれをちょっと複雑そうな表情で見ていた。
「木下くん……どうして私がここに監禁されてるって分かったの?」
不思議でしょうがなかったことを聞くと、木下くんは自分のスマホをポケットから取り出して見せる。
「昨日の夜、春澤からの着信が三回もあった。けど、どれもほんの一瞬だけ。かけ直してみても全然繋がらないし、何かおかしいと思ったんだ」
それから彼は視線を逸らし、大きな溜息を吐いてから話し出す。
「それに姉さんが春澤を疎んじてることは知ってたから。もしかしたらと思って姉さんの携帯のGPSを調べたら、春澤が社員旅行に行ってる場所と一致したから、きっと良くないことが起きてると確信したんだ」
「姉弟とはいえ大人がGPSを管理されてるのは珍しいことだよね?」
木下くんの言葉に綾部さんが間髪いれず尋ねると、彼は綾部さんに向かって申し訳なさそうに頭を下げた。
「……すみません。姉がこういうことをするのは初めてじゃなくて、家族でなるべく監視しあってたんですが止めきれなくて」
マリさんの異常な行動は今に始まったことじゃなかったのかと驚くと共に、弟である彼の心中も察して、なんだか気の毒に思えた。