イジワル上司と秘密恋愛
今思うとあのプロポーズは、木下くんなりに私をマリさんから逃がそうとしていたのかもしれない。
綾部さんの元を離れ、東京に戻ってくることは、確かにマリさんの悪意から逃げられることになるから。
「……それでも木下くんは今日こうして私を助けに来てくれたじゃない。それだけで充分だよ、ありがとう」
お礼を述べて微笑みかけると、木下くんは泣き出しそうな表情になって顔を俯かせた。
もう一度、
「春澤……本当にごめん」
と言って。
やがてパトカーが到着し、私の長い長い夜は終わった。
怖い思いも痛い思いもしたけれど、病院でも警察でもずっと綾部さんが寄り添ってくれて。
もう誰の目も気にすることなく自分の気持ちに正直に彼に甘えられるのは、負った傷のつらさなど気にならないほど幸せな気持ちにさせてくれた。