イジワル上司と秘密恋愛


年が明けて下半期も大詰めになり、仕事は相変わらず多忙を極めている。

『Cheers』の展開も上々で、今年度のH&C事業部は社内最優秀部門を狙えそうだとか。

仕事も綾部さんとの生活も順調だけど……木下くんが自分の会社の経営から手を引いてしまったことだけは残念に思っている。

もう二度とこんなことが起きないように、これからは姉のマリさんを支えることに心血を注いでいきたいそうだ。

リストランテは他の取締役の人が受け継ぎ、引き続き『Cheers』を扱ってくれているけれど……グラスに注がれた『Cheers』のカクテルを見るたびに、あの日の木下くんを思い出して、わたしはちょっぴり切なくなる。

木下くんもマリさんも、これからは穏やかな人生を送れたらいいなと、願わずにはいられなかった。


そして——“マリ”さんと言えば。


「ほら、大丈夫だよピンセットだから。餌あげてごらん、喜ぶよ」

「無理です! マリリンは良くても、虫は無理!」

私を散々勘違いさせた、綾部さんの寵愛を受けているヒョウモントカゲモドキの“マリリン”。

最近は触れるぐらいには慣れてきたけど、餌の虫だけはどうにも慣れることは出来ない。

「志乃は怖がりだなあ」

綾部さんとしては私とマリリンをもっと仲良くさせたいみたいだけど、ここが限界だと理解して欲しい。
 
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