イジワル上司と秘密恋愛
1・不毛な夜のはじまり
【1・不毛な夜のはじまり】


綾部さんが私、春澤志乃(はるさわ しの)の上司になったのは一年前の事だった。

大手酒造メーカー『サンライズ』のリキュール・スピリッツ類事業所。つまり、カクテルやチューハイを専門に扱う事業部。綾部さんはそこの企画部・マーケティング企画課課長として配属されて来た。

スラリとした細身のスタイルにあっさりとした嫌味のない顔立ち。目尻の下がった切れ長の目は少し冷たそうにも見えたけれど、優しく下弦の弧を描く口元には安心感を覚えた。

三十二歳という歳相応な大人の色気を持っていて、ふとした瞬間、薄く血管の浮き出る手の甲や長く骨ばった指先、バングを斜めに流した自然な黒髪などに時々目を奪われたのを覚えている。


一緒に働きだして数日で、彼はとにかく人当たりのいいタイプだと感じた。

上司としての威厳を損なうことなく細やかで親切な気配りが出来る人で、そんな器用な立ち回りの出来る綾部さんはたちまち女子社員たちの憧れとなった。

 
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