イジワル上司と秘密恋愛
そうして答えの無い思考にたゆたうこと二時間。私はようやく意を決して身体を起こすと、バスルームへと向かった。
たかがシャワーを浴びることがこんなに怖いと思った事は無い。服を脱ぎ全裸になった時、もしも昨夜の名残がどこかに残っていたら——そう考えると、なかなか勇気が出なかった。
けれど、昨夜どんな状態で寝てしまったか分からない以上、身体を綺麗にしない訳にもいかない。
私はバスルームの前の小さな脱衣スペースに立ち、なるべく鏡を見ないようにして服を脱いでいった。
それなのに。……ああ、やっぱり綾部さんはイジワルだと、目頭がジンと熱くなる。
胸の先端付近に、腿の高い位置に、『なかった事にはさせない』と言わんばかりの赤い痕。
まるで独占欲の証のように思えてしまって、心の奥が思考と裏腹に喜んでしまう。
「……昨日……ここにキスされたんだ……」
覚えていない愛撫の痕に指を辿らせれば、高鳴る鼓動と共に身体が熱くなった。
——何を思って、どんな表情で、どんな言葉を紡ぎながら、キスを落としたんだろう。
そんな事に想いを馳せてしまう自分は本当に馬鹿だと嘆息した。