イジワル上司と秘密恋愛


駅前のカジュアルレストランで美味しいディナーとデザートを食べて、それからショッピングモールをブラブラと覗いたあと、ずっと買おうか迷っていたポーリッシュポタリーのマグカップを思い切って購入した。

美味しいご飯と甘いもの、それにちょっと贅沢な可愛いもの。女の子を元気にする特効薬は充分な効果を与えてくれて、私は家を出たときよりずっと晴れやかな気持ちで家路に着く事が出来た。

明日の朝、さっそくこのマグでコーヒーを飲もう。そんなウキウキとした気持ちで小箱の入ったショッピングバッグを抱えマンションに辿りついたというのに。

私の部屋の前に立っていた人物が足音に気付きこちらを振り向いた瞬間、楽しかった気分など一瞬で吹き飛んでしまった。

「……春澤」

「……綾部さん……」

こんなに蒸し暑い夜でも清涼さを感じるスマートな出立ち。今日も胸元を緩めたサックスブルーシャツにスリムなシルエットのスラックス。サラリとした黒髪が、私を見据える切れ長な瞳が、冷たい色香を燻らせていた。

 
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