イジワル上司と秘密恋愛
綾部さんは「そっか」と言って笑うと、手に持っていた白い袋を掲げて見せた。その独特な形と『patisserie』のロゴから、中身が何か容易に想像が着く。
「一応ケーキも買って来たんだけどさ、お腹に余裕ある?」
本当はさっきレストランで桃のジェラートを食べてきたばかりだけど、少し得意げに笑う彼がなんだか可愛くて、私は思わず頷いてしまった。
もしかして、ズル休みの私を本当に気遣ってお見舞いに来てくれたんだろうか。そんな淡い期待が胸に過る。
けれど。
ケーキを受け取ろうと伸ばした私の手を交わし、綾部さんは軽く身を屈めると……私のおでこにキスをした。
「一緒に食べよう」
怜悧な瞳が微笑むのを見て、泣きたい激情と背筋を駆け登るような冷たい熱を感じた。
——綾部さんは心配して様子を見に来た訳じゃない。私の部屋へ、セックスをしに来たんだ。