イジワル上司と秘密恋愛
断ればよかったんだ。『部屋が散らかってるんで』でも、『まだ体調が優れないんで』でも、なんだっていい。部屋に上げない理由なんて幾つでも思い浮かぶのに。
「可愛い部屋だな。春澤らしい」
部屋の中央にあるローテーブルとコンパクトソファー。そこに腰掛けて綾部さんはゆっくりと私のワンルームを見回している。
少し離れたキッチンスペースでケーキとお茶の用意をしながら、私は自分の行動に後悔と戸惑いを覚えていた。
彼の言う事を従順に聞いてしまう自分の心が理解できない……ううん、本当は分かってる。
やっぱり綾部さんの事が好きで、一緒に居たいんだ、私は。
きっとこの後、心も身体もますます傷付いてしまうと分かってるのに。