イジワル上司と秘密恋愛
綾部さんは仕事にも積極的で、チームごとのブレストにも必ず参加し積極的に意見交換を進めた。
仕事が出来て、優しくて、大人っぽくて。そんな絵に描いたような理想の上司ならば、恋に奥手だった私でも胸をときめかせてしまうのは当然の事だと思う。
私は気がつくと綾部さんを好きになっていた。
けれど、それは激しい恋心というよりは淡い憧れに近いもので。
良いアイディアを出して褒められたら嬉しい、お昼休みに偶然同席できたらドキドキする、課の飲み会で彼のプライベートな一面を知れたら幸せ、そんな子供の初恋みたいな想いだった。
けれど、二十四歳にもなって恋人も出来た事のない冴えない私には、例え幼稚でも胸を甘く疼かせる幸せな恋だった事には間違いない。
淡くて良かった。憧れで良かった。ささやかで幸せな日々がずっと続けば良かったのに——
綾部さんと出会って四ヶ月が過ぎたあの夏の日から、全ては変わってしまった。