イジワル上司と秘密恋愛
「……どうぞ」
複雑な感情が絡み合って強張ってしまう顔を俯かせ、綾部さんの前にコーヒーの入ったカップを差し出した。
続いて向かいの席にもさっき買ったポーリッシュポタリーのカップに淹れたコーヒーを置き、もう一度キッチンへ行ってケーキをトレーに乗せて戻ってくる。
「……どっちがいいですか?」
綾部さんが買って来てくれたのは白桃のタルトとスフレチーズケーキだった。
「春澤のために買って来たんだから、お前が選びな。一応好きそうなの選んだつもりだけど」
そんな台詞をサラリと吐き出せるのが綾部さんらしいなと思った。こんな風に細やかな気遣いを嫌味なく出来るから、彼は女子社員に好かれているんだ。
私はふたつのお皿のケーキを交互に眺める。好きなのは白桃の方だ。けれどさっき桃のジェラートを食べたばかりなので、チーズケーキの方を選ばせてもらう。
桃のタルトを彼の方に置くと、綾部さんは一回目をしばたかせてから私のほうを見て微笑んだ。