イジワル上司と秘密恋愛

「それ、いいカップだね」

「えへへ、いいでしょう。ずっと欲しかったんです。思い切ってさっき買っちゃった」

綾部さんが私の好きなものを覚えててくれて、チーズスフレがとっても美味しくて、買ったばかりのカップを褒められたから。

今日一日燻っていた複雑な感情は、心の奥ですっかり息を潜めてしまった。

「最近そういう青い花柄とか水玉の食器よく見るけど、流行ってるの?」

「やだ、綾部さんってば。ポーリッシュポタリーっていうんですよ。今人気じゃないですか、知らないんですか?」

「ごめん、俺おっさんだから流行に疎いの」

「また歳のせいにする〜」

まるで昨日までの関係に戻ったような会話。楽しくて、じゃれあって、仲のいい上司と部下のそれ。

こんな関係が私は好きなのに、とても心地良くてこれ以上は望まないのに。


「春澤」

「なんですか?」

「キスしていい?」

どうしていつもと変わらない笑顔で全てを打ち壊すことを言うの。

 
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