イジワル上司と秘密恋愛
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「……ん、……んっ……」
昨夜もこうやってキスしたんだろうか。全然慣れてなくて、上手に息を継ぐことも唇を開くことも出来ない私に、ひとつひとつ教え込むように。
「舌、出してごらん」
細められた瞳に怜悧な光を湛えて、綾部さんは私に従わせる。
おずおずと口を開き言う通りにすれば、私の舌に彼の舌がなめまかしく絡められた。水音をたて交じり合う唾液に、私の選ばなかった桃の味がした。
——浮気相手なんていや。セフレなんていや。綾部さんに抱かれるのはいや。
倫理もプライドも全て溶かし消していくキス。
人は所詮動物だと、私の中の本能があきらめのように囁いた。
好きな人に抱かれることを拒むなんて出来ないと、火を灯したように熱くなっていく身体が疼く。
例え明日。また泣きたくなるような後悔をしても——
少しずつブラウスのボタンを外していく綾部さんの無骨な手を、私は悦びと早すぎる後悔の狭間で見つめていた。