イジワル上司と秘密恋愛
「あ、あぁ……ん、き……らい、綾部さんなんか……大っきらい」
「俺は好きだよ」
戯れるような不毛な言葉遊び。私は彼に抱かれながら何回『嫌い』と告げたのだろう。
肌に馴染んでいるはずの自分のベッドのシーツが冷たいと思ったのは、きっと彼の肌が温かく心地良いから。
知ってしまうには未熟すぎた。こんなに幸せなぬくもり、私にはもう抜け出す術などない。
「好きだよ、志乃」
思考を蕩かせるその言葉は、明日の朝には傷になって残る。
明日も私は泣くかもしれない。昨日より今日より深くなってしまった恋心が、行く宛てもなく彷徨う苦しさに。
——けれどもう、そんなことはどうでもいいと思った。