イジワル上司と秘密恋愛
『遅くまでおつかれさまでした。気をつけて帰ってくださいね』
そっけなく、可愛げの欠片もないメッセージ。
綾部さんのくれる優しさを全部受け流そうと思ったら、こんな業務連絡みたいな文章になってしまった。
なのに、可愛くないメッセージを送ってから三分後。私の端末は電話の着信音を鳴らせる。
『志乃』
通話をタッチするなり、短く呼びかけられた声に総毛立つような冷たい熱を感じた。
どうしてこの人の声はこんなに扇情的なのだろう。まるで耳朶を食まれているみたい。
「……こんばんは」
逸る動悸に翻弄されてまともな言葉も出てこなくて、なんだか間の抜けたことを口走ってしまった。
電話の向こうではクスッと小さく笑う声が聞こえたあと、『こんばんは』と優しい口調で挨拶が返された。