イジワル上司と秘密恋愛
やっと彼の機嫌が直ったことにホッとしつつ、私はスマホを鞄にしまうと飲みかけていたサングリアに口をつける。
そして視線をカウンターテーブルに落としたまま小さく溜息を吐いた。
「……勝手です、綾部さんは。断るにしたってこんな一方的な拒絶じゃ相手に失礼になるのに。母や仲人さんにも迷惑が掛かりかねません」
彼の命令は幼稚で残酷だった。“三分以内にそいつとの繋がりを全部絶って”だなんて、始めはふざけてるのかと思ったぐらい。
けれどそれはちっともふざけていなくて、私が引きつった笑顔で『ウソですよね?』と聞いたら綾部さんは、何も言わないまま首を横に振って冷たく私を見据えるだけだった。
その眼差しに逆らえなくて大人しく遂行してしまった自分にも嫌悪するけれど、綾部さんときたら冷静に、けれどどこか機嫌良さそうにミントジュレップのグラスを傾けて言う。
「何か問題が起きたら俺がなんとかするよ」
「なんとかって……」
あまりにも曖昧な口先の台詞に、私の顔には失笑の表情が浮かんだ。