イジワル上司と秘密恋愛
——誠意のないひと……。
分かりきっていることを今さら考えて気持ちが沈む。
本命の恋人がいるくせに私と浮気をしてる時点で、誠意も誠実もあったもんじゃないのは分かっているけれど。
今朝の『そんなに結婚したきゃ俺がしてやるよ』の台詞といい、綾部さんは平気で重い言葉の嘘を吐く。
浮気相手への安いリップサービスのつもりなのだろうかと思うと腹が立ってきて、私は彼の方を一瞥してから視線を逸らし頬杖をついた。
「なんとかって何なんですか。適当なことばっかり言わないで下さい」
私がちょっと怒ってることを察したのか、綾部さんはわずかに驚きを含んで視線をこちらへ向けると、手にしていたグラスを置いてから話し出した。
「揉めるようならお前の家族や仲人に俺が頭下げにいくよ。『志乃さんと真面目にお付き合いしてるんで、見合いの件は無かったことにして下さい』って。それでも不満か?」
——うそつき……。
彼を責める言葉はグラスのサングリアと一緒に身体の奥へ流し込む。冷たくて苦くて甘いアルコールとウソが、ひとつになって私の中へ溶けていった。