イジワル上司と秘密恋愛

***


そうして訪れた週末。

私は綾部さんと甲信越の温泉へとやって来た。

山の中腹にあるこぢんまりとした温泉は、ちょうど夏休みの時期と紅葉シーズンの間でお客さんも少なく、とても落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


東京を出発してからここへ到着するまで、私は正直浮かれていた。顔が嬉しくて緩んでしまうのが抑えきれず、つい饒舌に綾部さんに喋り掛けてしまうほどに。

好きな人と遠い場所へ旅できることがこんなに嬉しいだなんて。

彼の運転する車から見える景色の全てが煌いて見えて、海も山も街も新鮮に見える。

そして綾部さんも、いつもよりリラックスしていて会社に居るときよりずっと柔らかな雰囲気を纏っていた。


予約していた旅館に着き部屋へ案内されると、私はまず広縁に行き窓からの景色を堪能した。

 
< 75 / 239 >

この作品をシェア

pagetop