イジワル上司と秘密恋愛
——ほら、全部ウソだった。『結婚してやる』なんて、『愛してる』なんて、何もかも全部。
頭の中で私が私をあざ笑う。
他の女性と家庭を作ろうとしている男に浅はかな睦言を紡がれて喜んでいた私は、本当になんて馬鹿なんだろう。
私に愛を語ったその口で“マリ”さんと将来を語り合い、私を弄んだ手で“マリ”さんを抱きしめ、私にウソをくれた唇で“マリ”さんに本当の誓いを紡いでいたのに。
「——っ……」
嗚咽をあげて泣きそうになってしまって、私は口元を抑えると慌てて席を立ち食堂から走り去った。
驚いた野崎さんたちの呼びかけた声が耳に届いたような気がしたけれど、頭には入ってこなかった。
ひとりで泣きたいときに駆け込む非常階段の踊り場。私はそこまで辿りつき扉を閉めると声を殺して泣いた。
苦しくて苦しくて、どんなに泣いても気持ちが収まらない。
狭い踊り場の隅っこに蹲りながら、このまま死んでしまうんじゃないかと思うほど泣き続けた。
昼休みを三十分ほど過ぎてしまってから、私は朦朧とした頭を抱えてフラフラと身体を立ち上がらせた。