イジワル上司と秘密恋愛
下っ端で若造の私が課長に向かって感情的に言い返したなんてあまりにも不躾で、周りの人が一斉に驚きをこちらへ向けるのが分かった。
そこにすかさず割って入ってきたのはリーダーの野崎さんで。
「課長、申し訳ありません。春澤さん体調崩して情緒不安定だと思うんで。ほら、志乃ちゃん。少し外で休んで来ようか」
なんとか穏便に場を納めようと私の腕を引き、フロアの外へ連れ出そうとした。けれど。
「野崎、かまうな。春澤、お前は今日はもう帰れ。上司にそんな口の聞き方をする状態が“大丈夫”だと思うな。そんな態度でフロアに居座られたら全員が迷惑だ。早退しろ。これは課長としての命令だ」
厳しく言い放たれた綾部さんの言葉に、フロアは恐ろしいほど静まり返った。
——悪いのは私。分かってる、公私混同してる自分が一番悪いこと。でも。
「〜っ……!」
悔しくて悲しくて、涙が抑え切れなかった。
みんなが驚きの目で見つめる中、私は黙って席から立ち上がり鞄と上着をつかむと、一礼をしてフロアから出て行く。
「志乃ちゃん! ちょっと!」
慌てて追い掛けようとしてくれた野崎さんが視界の隅っこに映ったけど、
「いいから放っておけ」
と、綾部さんの否める声が聞こえると、野崎さんの足音はそこで止んだ。