イジワル上司と秘密恋愛
——もしかしたら。もしかしたら。
そんな風にずっと心の片隅にあったズルい期待。
もしかしたら、“マリ”さんとはもう別れてしまってるのかもしれない。
もしかしたら、いつの日か私を選んでくれるかもしれない。
そんな卑しくてズルくて淡い期待は、全部吹き飛んだ。
そして、綾部さんがどれほど“マリ”さんを大事にしてるかも分かってしまって……遊ばれているだけの自分がどれほどみじめか、嫌でも思い知った。
「大っきらい……綾部さんなんか、大っきらい……!!」
ひとりの部屋にむなしく私の泣き声がひびく。
身体を預けているベッドは、何回も綾部さんが私を抱いた場所で。彼のぬくもりやムスクが残っているような錯覚が、ますます悲しみを増徴させる。
——せめて、優しくしないで欲しかった。あんなに優しく、抱かないで欲しかった。
もっと冷たく、割り切った関係でいられたなら——こんなに好きにならずに済んだのに。
「綾部さんの……イジワル……」
こんなに傷ついても嫌いになれないほど、好きにならずに済んだのに。