イジワル上司と秘密恋愛
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送ってくれると言った帰り道で、抱きしめられてキスをした。
拒もうとした手は強く押さえられ、ひとけの無い道の隅っこで何度も奪うように唇を重ねられた。
「俺を好きになれ、春澤。そうしたら絶対お前を泣かせたりしない」
キスの合間に熱っぽく囁かれた台詞は、幼い頃に散々私を泣かせた木下くんのものとは思えなくて、なんだか不思議な感じがすると他人事のように考えてしまった。
抱きしめられて、キスをされて、愛を囁かれて。このまま私は木下くんと新しい恋を始められたらいいとさえ思っているのに。
胸がときめかないことが、身体が熱く昂ぶらないことが、自分でもとても不思議だった。
それでも私は決めたから。マンションの手前まで送ってくれた彼に微笑んで次の連絡を約束する。
「帰ったらまた連絡する。明日の朝も、仕事が終わってからも。寂しくなったらいつでも言って。時間作って必ず会いに来るし、俺もそうするから」
泥沼の恋でもがく私の手を離さないように、木下くんはたくさんの約束で私を繋いで行った。
たとえ胸がときめかなくても、その熱心な想いが嬉しいことに違いは無い。
最後のキスは抵抗せずに受け入れて、私は帰っていく彼の背を見送った。