イジワル上司と秘密恋愛


——うちの小さなマンションは外の通路に外壁があって。三階の私の部屋のドアはちょうど外壁で隠れている。だから。


「会社を早退して男とイチャついてるとは思わなかったよ」

三階の階段を上がりきるまで、私は玄関の前で綾部さんが待っていることに気付けなかった。

腕を組んで壁にもたれかかったまま綾部さんがこちらに流す視線は、冷たくて痛くて、それだけで私の足を動かなくしてしまう。けれど。

「お前の体調を心配してやった俺の立場も少しは考えろ」

忌々しげに呟かれたそんな台詞が、胸を覆っていた怯えと罪悪感を打ち消した。


——私の心も身体も傷つけてることにこれっぽっちの罪悪感も覚えていないどころか、『俺の立場を考えろ』だなんて。

だったら最初から私なんかに手を出さないで欲しい。浮気だなんて自分の立場が危うくなることを仕掛けてきたのは綾部さんからじゃない…!——
 
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