ベナレスからの手紙
三回忌1
三回忌の命日当日には児玉と宮本さんしか来れなかった。
児玉は親父の小児科を継ぐべく研修見習いと称して広島の
実家にいた。宮本さんは早々と結婚してもう若奥さんだ。
他は皆都合が悪く来れないという。12月の平日のしかも
昼間だから仕方がないかと諦めつつ幟町の寺へ向かう。
電停で待ち合わせをして大通りを右折すると閑静な住宅街に入る。
児玉が先を歩き後を若林と宮本さんが並んで歩いた。しばらく
無言だったが、いきなり宮本さんが若林に語り掛けてきた。
「杏子は若林君が大好きだったのよ」
若林は突然のことで驚いた。
「うそだよ。そんなこと一度も聞いたことないよ」
「ほんとよ。小学校6年の時みな誰が好きって言いっこした時、
あの無口な杏子が最初に若林君って言ったのよ」
窺うように宮本は治の顔を見る。
「嘘だよそんなの、本人から1度も聞いたことないよ」
治はちょっとむきになった。それをたしなめるように宮本は、
「あたりまえでしょ。本人を前にしてそんなこと言えるわけがないでしょ。
それでその時私もびっくりしたから、なんで?若林君のどこがいいのって
意地悪く聞いたの。そしたら、死んだおにいさんにそっくりだからって
いうのよ、はっきりと」
「へー、初めて聞いたな。杏子に兄貴がいたんだ」
先を行ってた児玉も遅い二人の足取りに戻ってきて会話に加わった。
「そう、一つ上のお兄さんだったらしいんだけど、ずっと入院してて
その前の年に亡くしてるのよね彼女」
児玉は親父の小児科を継ぐべく研修見習いと称して広島の
実家にいた。宮本さんは早々と結婚してもう若奥さんだ。
他は皆都合が悪く来れないという。12月の平日のしかも
昼間だから仕方がないかと諦めつつ幟町の寺へ向かう。
電停で待ち合わせをして大通りを右折すると閑静な住宅街に入る。
児玉が先を歩き後を若林と宮本さんが並んで歩いた。しばらく
無言だったが、いきなり宮本さんが若林に語り掛けてきた。
「杏子は若林君が大好きだったのよ」
若林は突然のことで驚いた。
「うそだよ。そんなこと一度も聞いたことないよ」
「ほんとよ。小学校6年の時みな誰が好きって言いっこした時、
あの無口な杏子が最初に若林君って言ったのよ」
窺うように宮本は治の顔を見る。
「嘘だよそんなの、本人から1度も聞いたことないよ」
治はちょっとむきになった。それをたしなめるように宮本は、
「あたりまえでしょ。本人を前にしてそんなこと言えるわけがないでしょ。
それでその時私もびっくりしたから、なんで?若林君のどこがいいのって
意地悪く聞いたの。そしたら、死んだおにいさんにそっくりだからって
いうのよ、はっきりと」
「へー、初めて聞いたな。杏子に兄貴がいたんだ」
先を行ってた児玉も遅い二人の足取りに戻ってきて会話に加わった。
「そう、一つ上のお兄さんだったらしいんだけど、ずっと入院してて
その前の年に亡くしてるのよね彼女」