ベナレスからの手紙
杏子の日記5
「貧血だけですからすぐ退院できますよと言われた。だけどもう私
にはわかっている。身体が今までとは違う反応をしているのが
微妙に十分本能的に感知している。若林さん助けて!ほんとのとげが
とうとう抜き差しならないところに来てしまった。
若林さんに、告白できなかった小さなとげのこと。もう助からない。
わたしには人を愛する資格も愛される資格も無いのかしら。
教えてください若林さん。今すぐ飛んできてほしい」
案の定、検査で入院は長引いた。
「悲観的になってはいけないと温和な中年の担当医師は、私の眼を
じっと見つめて力強く言ってくれた。この晩、夢を見ました。若い
医師が私の手を取ってこう言うのです。悲観的になってはいけない、
君は必ず助かる、もうすぐ元気になって退院できるから頑張るんだ!
その医師はなんと若林さんでした」
それでも1か月足らずで杏子は退院した。梅雨時に1度、秋口に1度
背骨に激震が走ったが何とか耐えて薬を飲み落ち着くと、必ずその夜
に医師の若林が夢の中に現れて励ましてくれたそうだ。
その頃治はというと、大学はバリケード封鎖でアルバイト三昧の寝袋
生活で連絡の取りようもなかった。杏子は卒論を書き終え、幟町小学校
への赴任も決まった年の暮れ、若林からの2通目の手紙を受け取った。
日記には、
「12月になるとひょっとしたらと思っていたところへ若林さんからの
手紙が届いていました。やはり海外へ行くという内容。ゲバ棒ふるって
なくてよかった。必ず手紙が来ると信じていたのが当たったことが1番
うれしい。さあ返事を書かなくちゃ」
ところがその返事も受け取っていない。2通目の封筒を開けてみた。
日付は12月30日、1度消してある。返事は書かれていたのだ。
にはわかっている。身体が今までとは違う反応をしているのが
微妙に十分本能的に感知している。若林さん助けて!ほんとのとげが
とうとう抜き差しならないところに来てしまった。
若林さんに、告白できなかった小さなとげのこと。もう助からない。
わたしには人を愛する資格も愛される資格も無いのかしら。
教えてください若林さん。今すぐ飛んできてほしい」
案の定、検査で入院は長引いた。
「悲観的になってはいけないと温和な中年の担当医師は、私の眼を
じっと見つめて力強く言ってくれた。この晩、夢を見ました。若い
医師が私の手を取ってこう言うのです。悲観的になってはいけない、
君は必ず助かる、もうすぐ元気になって退院できるから頑張るんだ!
その医師はなんと若林さんでした」
それでも1か月足らずで杏子は退院した。梅雨時に1度、秋口に1度
背骨に激震が走ったが何とか耐えて薬を飲み落ち着くと、必ずその夜
に医師の若林が夢の中に現れて励ましてくれたそうだ。
その頃治はというと、大学はバリケード封鎖でアルバイト三昧の寝袋
生活で連絡の取りようもなかった。杏子は卒論を書き終え、幟町小学校
への赴任も決まった年の暮れ、若林からの2通目の手紙を受け取った。
日記には、
「12月になるとひょっとしたらと思っていたところへ若林さんからの
手紙が届いていました。やはり海外へ行くという内容。ゲバ棒ふるって
なくてよかった。必ず手紙が来ると信じていたのが当たったことが1番
うれしい。さあ返事を書かなくちゃ」
ところがその返事も受け取っていない。2通目の封筒を開けてみた。
日付は12月30日、1度消してある。返事は書かれていたのだ。