ベナレスからの手紙

高2の秋

高2の秋、柴山杏子がテニスで県大会を優勝したことが新聞に出ていた。
もう我慢できない、何とかして会いたい。ほとぼりが冷めたころを
見計らって電話をかけてみた。少し緊張する。

「若林と申しますが」
「えー、若林君!」
直接杏子が出た。相当驚いているようだった。

「新聞見ました。優勝おめでとう」
「どうもありがとう」
「ちょっと用事があって電話しました」
「なんでしょうか?」
「香山書院の日本史を1年の時とっていませんでしたか?」
「ええ、とってましたけど」

若林は前もって調べておいたのだ。今その教科書が手に入りにくかった。
「その教科書未だお持ちでしたらぜひ譲っていただきたいんですが」
「ええ、かまいませんよ。ちょっと汚れてますけど。でもどうやって届けましょう」
「時間と場所を指定してください。急で済みませんが、必ず取りに伺います」

「そうですね、明後日の5時に八丁堀の電停で」
「わかりました。明後日の5時に八丁堀の電停で待ってます。よろしく
おねがいします(ガチャ)」

治は胸ドキドキの冷や汗で大きく深呼吸をした。
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