Syndrome not to need
『ブォォォォォ…』

長年うちに仕えてくれている運転手さんの運転する車の音だけが、車の中で虚しく鳴っているなか、父親が口を開けた。

「…それで、何故警察の世話になっていたんだ。」

「……別に、大したことじゃない。」

私は腕と足を組み、父親と反対側の窓を見た。
ごめんなさい、運転手さん。気まずいですよね…。

「いいから言うんだ…!」

父親は酷く疲れたように、ネクタイを緩めオールバックの髪の毛を少しくしゃくしゃにしてリラックスしたような格好をした。

「………クラスの男子にストーカーされて、いきなり殺す宣言をされて腕を斬られた所に、さっきの桐山くんが助けに来てくれたの。」

後ろを見るミラー越しに見えた、長年見慣れた運転手さんの顔はとても驚いていて、心配している顔をしていた。

そして父親は、その後何も言わなかった。

娘がこんな目にあってるのに心配の一言も無し?
やはりまだ父親なだけ、私は父親に構ってほしい、好きでいて欲しいところがあるのだろうか。
とてもいらだち、そして同時に泣きそうになった。
しかし泣いたら負けな気がして、私は涙を我慢していた。

今も思い出すだけで震える、自分に向けられる刃。
まだ治療されていない、怪我をした左腕の二の腕の震えが止まるまで私はずっと怪我の場所を抑えていた。

「っ………。」

もうやだなぁ。何で私がこんな目に合わなきゃいけないの?何で私が怪我しなきゃいけないの?いじめられなきゃいけないの?
疑問ばかり増えていって、増えていくほど虚しくなって悲しくなって、涙は抑えられなくて……。
そんな時、大きくて暖かな手が、私の頭を撫でた。
お父さんを見ると、私と反対の方向の窓を見ていたけれど、頭を撫でてくれている手は止まらなくて…。私の目からとうとう一粒の涙がこぼれてしまった。
一度出たら止まらなくて、お父さんの久しぶりの優しさが嬉しくて、嬉しくて…。

「ひっくっ…うっ…ひっ…。」

私は嗚咽をあげながら佐久家につくまで泣いていて、父親の頭を撫でる手は、いつの間にか肩に合って、私は父親の胸の中で泣いていた。
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