FIRST KISS ~オムニバス~



「さてと。」

体育館裏の桜は目立たない。
でも、好きだ。
それでも咲いているこの木が。
それでも立っている強さが。

私には、無いかもしれないけど。

スカートに付いたゴミを掃う。
少しシワが付いた。
ああ、また言われちゃうな。

「ふぅ……。」

スクールバックもへたった。
制服も柔らかくなった。

何だろう、この寂しさ。
大人になるのが、少し怖い。

“カランカラン。”

何か硬いものが落ちた音。

「?」

振り返って音のした方向に小走り。
誰か居るのなんて、珍しいな。

「…………。」

オドオドしながら覗く。
誰も居ない。
落ちてるのは、何だろう、スプレー?

「あ、ちょうどよかった、取って!!」

知らない声が何処からか聞こえてくる。
ひとまずスプレーを拾う。
よく不良が落書きしてるやつだ。
何だか、そういう人?

「ここ、ここ。上見て!!」

言われたとおり上を見る。
光でよく見えない。
顔は暗くてよく見えない。

「……ああ、茜ちゃん?」
「…………?」

よく見えない。
でも知らない声……。



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