FIRST KISS ~オムニバス~
「誰?」
「へ?同じクラスの楠木。」
クスノキ。
やっぱり知らない。
記憶力がない?
そうともいう。
「今年からの?」
「そ。」
「……じゃあ、知らない。」
そうだよ、まだ一年しかいないもの。
知らなくて当然。
知ってたら天才?
そんなところだろう。
桜が前髪に落ちてくる。
「ねえ、それ、上に投げて。」
「何してるの?」
「……秘密~。」
「あ、そ。」
“シュッ。”
特に興味があるわけじゃない。
だから、素直に投げてあげる。
それって普通だと思う。
伸びたカーディガンをまた少し伸ばす。
ただの癖。
手を見せるのが嫌で。
こうやって隠しちゃう。
「じゃあ、教室で。」
「うん。」
そう言って振り返る。
何事も無かったように歩きだす。
私たちの教室へ
私たちの校舎へ。