FIRST KISS ~オムニバス~
“カンカンカン。”
浩樹に買ってもらったミュールが脱げそうになった。
今持っている数少ない中の絆。
そう思うと辛い。
走った。
浩樹みたいに早くはないけど。
一生懸命、追いかけていた。
君を、一目見るために。
“オーストラリア行き、134便、まもなく出発いたします。ご乗車になられます方は、お早めにご搭乗ください。”
放送が響く。
弘樹の乗る便。
彼はまだ見当たらない。
「我等が日本代表。再度ご感想を!」
「困ります。もう出発なので。」
彼の声が聞こえた。
走った。
足が痛かった。
でも、もうどうでも良かった。
「浩樹っ……!!」
彼の名前を呼んだら、マスコミがこっちを向いて写真を撮っていた。
絶対、スクープにされてあることない事書かれてしまう。
けれど、彼がこっちに走ってきてくれた。
そしたら、もうどうでも良かった。
「来てくれたんだ……。」
「あんなので終わりなんて、ヤダ。」
「…………。」
「本当は行かないでほしい。」
「ごめん。」
「帰ってきたら、浩樹を、今度はアタシが優しくしてあげるからっ……。」
「え?」
不思議そうな顔をする彼に、彼の唇に、アタシはそっと触れた。
「大好き。だから、待ってる。」
「…………。」
彼の抱きしめてくれた体温に、アタシは安心してしまった。
ただ、眼を瞑って身を任せた。
彼が旅立つ便を、アタシはずっと、眺めていた―――――。