あたしをア・イ・シ・テ
「奈々加はどうせ俺のことは殺さないだろ。だったら、俺が時間稼いでお前が逃げた方がいいじゃねぇか」
「なんでよ、大丈夫だから早く二人で…」
「あれぇー?ユイトの声がする~。起きちゃったの~?」
ガララララ、という何かを引きずるような音と、奈々加の声が数メートル向こうから聞こえた。
「芽衣、早く行け。これが一生の別れってわけじゃねぇだろ?俺はお前のとこ行って土下座して謝って、そんで…全部説明するから」
暗闇で月に照らされて微笑む唯翔は、誰よりも頼もしくてカッコよくみえた。
普段より、数倍。
「唯翔のばか。全部唯翔が悪いんだ…」
あたしは俯いて、呟いた。
奈々加があんな女だったし、そんな女と浮気してた唯翔の事情なんて怖くて聞けないかもしれない。
だけど、あたしはやっぱり唯翔が好きだから、信じることしかできない。
「唯翔、絶対帰ってきてよ」
ガララララ、と何かを引きずる音はもうそこまで来ていて奈々加の高笑いが響く。
「当たり前だろ」
トン、と唯翔に背中を押されてあたしは言われた通りに右のほうに足音を立てないように走った。
窓、窓があるって言ったよね。
建物の壁に向かって走ってみると、少し外の光が漏れている所を見つけた。