あたしをア・イ・シ・テ



「簡潔にお話をしますと」


おじさんのほうが重たい声で話しだし、唾を飲み込む。


「あなたは10月19日に誘拐され、昨日の21日の夜に廃工場付近で倒れているのを発見されました。

男性の声で救急車が呼ばれたようですが現場にはいなかったようです。

なにか、その時の事や犯人の顔はわかりませんか?」


「あの、お姉ちゃんそこの記憶、ないみたいで…」


夏芽が少し怯えながら言うと、おじさんは髭を触りながら唸った。


「頭に相当の衝撃を加えられているので、記憶傷害が起きても仕方がないでしょうが…。

まだ自分自身を覚えていただけよかったかもしれませんね」

頭に衝撃…、だから頭がこんなに痛いのか。

記憶傷害?

あたし、なにを忘れちゃったんだろう。

わからないけど、心がぽっかりと空いているような、不思議な感覚。


さっき夢の中であたしを呼んだ人もわからない。

男の声だったけど。


「とりあえず、今日は帰ります。なにか思い出したら、連絡をください」


「わかりました」


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