あたしをア・イ・シ・テ



びくっ、と唯翔の体が震え出すのがわかった。


なに?なにが起きてるの?

見たいけど見たくない。


本能が逃げ出せ、とだけ言っている。



「うぁぁぁぁあっっ!!」


一際大きな侑矢の叫び声が聞こえたあと、どさっ、と人が倒れる音がした。


まさか…侑矢は…


「ふふっ、これで邪魔物はいなくなったなぁっ」


嫌だ…この声…聞き間違いなんてありえない。

でもなんで…。


「逃げろ!芽衣!!」

ふいに唯翔にどんっと肩を押されて、あたしはよろけた。


「な、なに言ってんの、唯翔!」


なんでまたこんなやり取りをしてるんだろう。

もうこんな思いはあの時だけで十分なのに…!


「…!?」


そして、唯翔という壁がいなくなって、あたしは見てしまった。

血だらけの侑矢が、地面に倒れているのを。


黒ずくめの人が赤に染まったナイフを手に持っているのが見える。


ぬらり、と光りで反射する赤い血を見ているだけで吐き気がしてくる。


なんでこんなこと、意味がわからないよ。





「なにしてんだよ、谷口!」


「やだっ、唯翔先輩怖い顔~!」


…そう、奈々加を突き落とし、侑矢を刺したのは…


サッカー部マネージャー、そしてあたしの復讐の手伝いもしてくれた、


谷口 まどか…。


< 162 / 179 >

この作品をシェア

pagetop