あたしをア・イ・シ・テ
「…っ!」
唯翔は一瞬怯むも、あたしの前からどかなかった。
「唯翔、いいよ」
「でも…危ねぇよ」
「唯翔先輩があたしたちが話している間、近づかなければなにもしませんって。私は話がしたいんです」
「…だったらナイフは置けよ」
「…いいですよ」
まどかがまたニヤリと笑った。
その豹変ぶりに、奈々加のときの同じ感覚が背中を走った。
まどかが地面にナイフを置くと、唯翔がそれを蹴飛ばし、ナイフはまどかの手の届かない場所にいった。
「じゃあ早く唯翔先輩は離れてください」
「…」
あたしは唯翔に目配せをして、大丈夫、という風に頷いて見せた。
まどかなら話せばわかる、とあたしはまだ期待をしていた。
あとで後悔するなんて、この時はまだ知らないから。
唯翔が数メートル離れると、まどかはあたしに少し近付いた。
「唯翔先輩、そこで後ろを向いていてくださいね」
まどかがそう言うと、唯翔は大人しく後ろを向いた。
「芽衣先輩、私がなぜこんなことをしているかわかりますか?」
「わかるわけないでしょ…。それが聞きたいのに」