遠い夏の少女


彼女の瞳は水気を帯びている。


幽霊でも涙は流せるのか………



健一君のバカ

どうして………

私、あなたにまだ生きていてほしいのに………



俺だって死にたくはない

だが、死神がどうのと言われても実感が湧かない

それに昔を思い出したところで、生きる希望になるかは甚だ疑問でもある

それに………


なんだって、美穂ちゃんは泣くほど俺の生命にこだわるんだ?

別に、君には関係ないだろう、俺の生命は


俺が発した言葉の直後、急に辺りが寒くなった気がした。



関係ないですって?

確かに健一君には関係ないかもしれないけど………私には関係あるの!

私、あなたのことが好きだったの

子供の頃、あなたと出会ってからずっと

そして、いつかまたあなたに私のバイオリンを聴いてほしかったの

もちろん、自分勝手な言い分だってこともわかるけど………

でも、私にとっては唯一の恋の思い出なの………

私………ずっとバイオリンを練習し続けたの

あなたにまた聴いてほしくて、そして、あなたにまた褒めてもらいたくて………

だから………
だから、私、死んでからもずっと、あなたを見守ってたの

この世から離れられないんじゃないの

離れたくないの………

あなたにバイオリンを聴いてもらいたかったから………

それなのに………

それなのに、あなたは自分の人生を放棄しかけている

それだけはイヤ

私のワガママだってことも、もちろん承知してるけど………

あなたには生きてもらいたいの

私にはもう出来ないことだから………



彼女の言葉は俺の胸に痛みを突き刺した。

なんと答えればいいのか………

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