遠い夏の少女
目の前の彼女は嗚咽を漏らしている。
彼女のことを思うと胸が痛む。
18歳でその生涯を終え、こんな俺に未練を残し、未だこの世をさまよっている。
色々、やりたかったことがあっただろう。
もっとバイオリンを弾きたかっただろう。
すまねぇ、こんなつまんねぇ俺なんかのために、泣いてくれて
なぁ、美穂ちゃん
弾いてくれよ、バイオリン
俺、すげぇ聴きたいんだ、君のバイオリン
楽器が無くても弾けるだろ?
君は体が無くても、こうやって俺の前に姿を現し、そして話しもできるんだから
俺の声に彼女は顔を上げた。
涙でぐしょぐしょの顔を無理やりクシャクシャにして笑った。
ありがとう、健一君
私、やってみる
そう言って彼女は闇に姿を消した。
その直後、俺の全身は温かい存在に包まれた。
彼女だ………
俺は彼女にくるまれている。