遠い夏の少女



夢だったのか?



翌朝、俺は壁にもたれかかったまま目を覚ました。

酒の飲みすぎのせいか体は重かったが、気分は清々しい。

停電は直っているようで頭上の電灯は煌々と灯りを灯している。


俺は電気を消し、カーテンを開けた。

眩しい朝の光が真っ直ぐに俺を照らす。
その眩しさになぜか喜びを感じる。


綺麗だ


朝日を見てそう感じたのはいつ以来だろうか。
遠い少年時代のことをふと思い出す。




あぁ、たまにゃ、じいちゃんとばあちゃんの墓参りでも行くか



突然そう思いつき、車で懐かしい田舎の山に向かうことにした。

なんとなく気分が高揚していて自分の中に生命の力強さが渦巻いていることに気付く。

俺は、初夏の緑の風を感じながら気分良く山道を進んだ。

目的地の墓地に着き、祖父母の墓に花と線香を供える。


その時、柔らかな優しい風が吹き抜けた。
ふと、風の吹く方に目をやる。

そこには、白い花が一輪刺してある墓があった。

「奥秋家之墓」と墓石に記してあるのが見える。

俺はそこに近づき、もうひとつ持ってきていた花束を供えた。

目を閉じて手を合わせる。

そして、心の中でそっと呟く。



『ありがとう、美穂ちゃん』



爽やかな風が吹き抜けていった。

その中に懐かしい旋律が聞こえた気がする。

空耳だったのか、それとも彼女がどこかで弾いているのか………



それは、彼女と俺が大好きな美しく優しい曲だった。
G線上で奏でられる美しい旋律がいつまでも俺の心の中に響き渡たる。




~了~
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